ピンポーン
と鳴って、インターホンの画面を見ると、そこには、ご近所の奥さんが映っていた。
回覧板かな、と思いつつ出ると、
「こんにちは、〇〇さん。あのちょっと、お願いがあって。」となんだか、もじもじしている。
そういえば、数週間前にも同じようなことがあった。ピンポーンと鳴ったが、私はちょうどトイレにいて、すぐには出れず、身繕いをして出てみたら、歩き去るご近所さん。ピンポンしてくれたのあの方かしらと思いつつ、声をかけられずにいた。
どうやらまた来てくれたようだ。
こんにちは、と出て行くと、
「あのね、おいちゃん(ご主人のこと)が、挿し木で増やした椿があるんだけど、〇〇さん、お花好きみたいだから、貰ってくれない?」という。
何でもいただく、欲張りな私は、ええ、いただけるものならと、奥さんの後について歩いた。
「これなんだけど。」と、指された花壇は、私が前を通るたびに、上手に育てておられるなあと感心していた場所だった。
いろんな大きさの鉢に、膝丈だったり、腰丈だったりの椿の木が植っていて、それぞれ蕾を付けて、花を咲かせている。
「これは、侘助。赤い花。こっちのは、白。どれでもいいから、欲しいだけもらって。」と奥さんは言う。
「これは、白に赤がすっと入るの。神様が赤くしたりしてるの。どれがどんなふうになるのかは、わからないのよ。」
優しく生きているんだろうなあ、この奥さん。なんて思いつつ、結局、勧められるままに、いろんな種類の椿の木をいただいてしまった。
奥さんは知っているのだろうか、私が植物枯らすマンであることを。
あの岡さんも、そしてたぶんおいちゃんも、椿が毎年咲くことを応援してくれていると思う。そう思うと、この木がある限り、私の家は幸せに包まれる気がした。